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植物もまたヒトと同じように呼吸して
二酸化炭素(以下、CO2)を放出する。

林野庁のホームページを見ると、スギの木やヒノキなどが光合成によりCO2を吸収して地球温暖化の防止に貢献しているというような記事を多く目にする。しかし、植物もまた生き物なので、人間が生きていくために呼吸をするのと同じように呼吸をし、CO2を放出している。小中学校の理科の授業で習ったはずなのだが、植物が呼吸してCO2を放出することを忘れている大人も多いはずだ。

 植物は私たち動物と同じように呼吸をして酸素を取り入れ、CO2を放出している。植物の生命活動に必要なエネルギーを取り出すプロセスとして、植物の呼吸は、気孔と樹皮にある皮目および呼吸根によって行われているという。しかし、植物の呼吸そのものの活動が動物の呼吸活動のように観察しづらいこともあるが、植物の呼吸もまた、人間と同じように24時間続けられている。また、もうひとつの植物の活動、光合成は太陽光など光エネルギーの状態に応じて活動している。植物は呼吸で発生したCO2を光合成に利用できるし、光合成で生成された酸素を呼吸に利用することもできる。日本植物生理学会によると、草本植物の葉が日中盛んに光合成を行っているときの光合成速度:呼吸速度比は10:1から20:1だという。

 国立環境研究所の研究「陸域生態系のCO2吸収量の全体像」では次のように述べている。「植物の葉は昼間に太陽の光を利用して光合成を行い、CO2を吸収します。いっぽう、植物の葉・枝・幹・根は昼も夜も呼吸を行い、CO2を放出しています。また、土壌の中に棲む微生物は、落ち葉や枯れた枝・幹などの有機物を分解することにより、昼も夜もCO2を放出します。陸上植物が光合成により吸収するCO2、呼吸や有機物分解により放出するCO2はそれぞれ1年あたり1300億トン(炭素換算)程度と推定されています。光合成によるCO2の吸収が、植物の呼吸や有機物分解によるCO2の放出よりも多ければ、その差し引き分の大気中のCO2が陸域生態系に有機物として蓄えられます。これを「正味の吸収」といい、陸域生態系が大気中のCO2濃度の増加を抑制する働きはこの「正味の吸収」によるものです。2013年から2022年の間の陸域生態系の正味のCO2吸収はおよそ平均で1年間に33(±8)億トン(炭素換算)と推定されています。このうちの13(±7)億トンが土地利用変化で放出されていると推定されていますが、この部分を差し引いてもおよそ20億トン(炭素換算)が陸域生態系に吸収されているということになります」

 世界資源研究所(WRI)の報告でも世界の森林による二酸化炭素の「正味の吸収」を約2倍の量を吸収したと報告している。WRI によると、2001~2019年のあいだに世界の森林は、伐採などによって年間平均81億トンのCO2を大気中に放出し、いっぽうで、年間156億トンのCO2を吸収していた。これは、米国が年間に排出するCO2の1.5倍に相当する76億トンのCO2を森林が毎年吸収していることになるという。世界の三大熱帯雨林のうち強力な炭素吸収源であり続けているのはコンゴの熱帯雨林だけで、排出量を差し引いても年間6億トンのCO2を吸収していると報告している。これは国立環境研究所の試算より4倍ほど多い量だが、これも二酸化炭素の吸収量を正確に計測するための研究が道半ばであることを示している。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書によると、陸上植物の光合成による年間の吸収固定炭素は120 Gt(ギガトン/10億トン)強で、陸上植物の呼吸による年間炭素排出は60Gt余りと推定されている。したがって、正味年間60Gt余りの炭素が植物によって吸収されていることになり、いっぽうで、陸上の人類を含む動物や微生物などの従属生物(光合成を行わない生物)の呼吸による年間炭素排出も60Gt余りと推定されていて、陸上の生物相全体での炭素収支は1から2Gt吸収の方向にあるとされている。また、海洋の炭素収支も2Gtほど吸収の方向にあり、これは、現在の大気のCO2濃度が地球全体の炭素収支の平衡バランスより高いことによるとしている。そして、その大気のCO2濃度を高めているのが、人類の活動にともなうCO2放出で、その量はおおよそ年間8Gtほどと見積もられている。

(文:森下茂男)

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