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環境トピックス

その2

メタンガス削減の切り札となるか?スタートアップ企業も続々参入するカギケノリ・ビジネス

近年、カギケノリという赤い海藻を牛や羊など家畜の餌に混ぜて与えることで、腸内微生物のメタン発酵を大きく抑えられることがわかってきた。2014年にオーストラリアで報告された論文では、牛の腸内環境を再現した試験管実験が行われ、通常の飼料にカギケノリを添加することで、98.9%のメタン発生を抑制できることがわかった。国際農林水産業研究センターによると、カギケノリは熱帯域から温帯域に広く生息する海藻で、この海藻にはブロモホルムという有機ハロゲン化合物が多く含まれ、この物質が腸内微生物のメタン合成を強く抑制すると考えられているという。

 二酸化炭素(以下、CO2)の約25倍の温室効果があるとされるメタンガスだが、米国海洋大気局(NOAA)によると、人間の活動を通じた2021年中の総排出量は約6億4,000万トンにも及んでいる。そのなかで、世界中で30億頭以上いるとされる牛や羊などの反すう家畜の消化管内発酵に由来するメタンは、全世界で年間約20億トン(CO2換算)と推定され、全世界で発生している温室効果ガスの約4~5%(CO2換算)を占めるため、地球温暖化の原因のひとつと考えられている。

 牛がメタンガスをゲップで排出するメカニズムは、牛の胃には数千種類の微生物が生息していて、そのなかにメタンを生み出す微生物もいて、胃にたまったメタンが息に混ざり、ゲップとして外に出る。 餌を多く食べる乳牛は、1日当たり約600リットルのメタンを排出するという。

 2021年11月に開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、米国はじめ、EUや日本など100以上の国が、2030年までにメタンガス排出量を2020年比で少なくとも30%削減することで合意しているが、メタンガス排出量のうち、石油や天然ガス生産・使用からの漏出などのエネルギー部門、ならびに家畜の消化管内発酵(いわゆるゲップ)などの農業部門がそれぞれ約4割を占めており、今後は両部門を中心とする削減努力が必須だと報告している。

 こうして現在、牛などの反すう家畜のメタンガス排出を削減しようと、畜産大国のアメリカやオーストラリア、ニュージーランドをはじめ世界各国の研究機関や大学などで研究が進められており、日本でも2023年に帯広畜産大学とユーグレナがカギケノリの配合飼料の研究で成果をあげており、最近では微細藻類の大量培養技術を持つアルヌールが、鹿児島県山川町漁業協同組合と神戸大学の協力の元、カギケノリの養殖に乗り出している。また読売新聞によると、高知県大月町の黒潮生物研究所もまた陸上でカギケノリを養殖し、家畜の飼料として活用するプロジェクトを民間2社と共同で取り組んでいる。カギケノリを配合した飼料は、ゼネコン大手の鹿島建設や、鹿児島県山川町漁業協同組合なども開発を目指しており、高知大学も民間企業と共同研究を進めているという。

 しかし、カギケノリの飼料化にはまだ問題点もあるようだ。前述の国際農林水産業研究センターによると、カギケノリを飼料化する上で、安定的な生産供給のための養殖技術開発、揮発性の高い有効成分を逃がさない加工法開発、長期的な給与による家畜への影響評価などを今後の課題にあげている。また、畜産農家にとって、飼料価格が高騰する中、メタンガス削減のために高コストな海藻飼料を与えるインセンティブは大きくなく、安く、大量にカギケノリを養殖できる技術開発が求められていると、結んでいる。畜産業は今、多くを輸入に頼る飼料価格の高騰と円安の直撃を受けており、さらにメタンガス削減のための海藻飼料購入の余力は残っていない。この先、政府はどこまで補助できるのだろうか。

カギケノリ培養株_RGB.jpg

カギケノリ培養株 写真:アルヌール

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