『しぜんかんきょう』第二号
Interview #06
日影茶屋 角田晋之助さん
真名瀬漁港で、ボランティアの皆さんにウニの駆除の手順を説明する角田さん(左から2 人目)
「地域と共生しながら、継続的に動く循環型地域環境の構築をめざしていきたい」
300年以上の歴史をもつ葉山の老舗日本料理店、日影茶屋の若き社長、角田晋之助さんの自然環境に対する意識は小さいころから育まれていた。「僕は、幼い頃からずっと葉山で育っていて、遊び場といえば海でしたので、幼いときから海や自然環境は近い存在にありました。また学生のときはずっとサーフィンをしていたので、ビーチクリーンといった活動にも参加してきました」
磯焼けの問題や地元で獲れる地魚の漁獲の減少など、角田さんが地元の海の自然環境の悪化を認識するようになったのは、日影茶屋の仕事を始めてからだという。「日影茶屋の仕事を始めてから、仕入れなどで漁師の方々と話をする機会が多くなりました。そのなかで、今の磯焼けの問題などがあることによって、魚の漁獲量が減ったり、サザエやアワビ、ワカメなどの海藻類が年々獲れなくなってきていることを知りました」
磯焼けや海水温度の上昇などの海の自然環境の悪化の問題は世界規模の課題ではあるが、それでは自分に何ができるのか、角田さん自身、自問した。「環境問題は日本全国、世界での共通の課題だとは思いますが、世界規模というと、自分が何か動いてできるということではないので、まずは地元でアクションを起こしたいと考えました」
角田さんはアマモ協議会の山木さんを紹介されて、以前から日影茶屋が取り組んでいる循環型の食品資源の再利用システムを活用する協力をはじめた。これは日影茶屋などの関連施設から廃棄される野菜や魚などの生ゴミを業務用の生ゴミ処理機で処理した堆肥を農家に配布し、その農家で育てた野菜類を仕入れるリサイクル型の「ヤサイクル」というシステムだ。「横須賀の会社が堆肥を作る機械を販売し、その機械でできた堆肥を回収して、成分を調整した堆肥を地域の農家さんにお渡しして、それで育てた野菜を今度は卸で販売されているという事業をされています。そのシステムでできた肥料は、それだけではなく、葉山などの小学校で食育の畑を作ることにも使用されているようです」
先日、角田さんと真名瀬の漁師たちと協力して、真名瀬湾で磯焼けの原因のひとつであるウニの駆除をおこない、そのウニの処理にこの生ゴミ処理機を利用して堆肥として再利用したという。「真名瀬の女性の漁師、畠山さんから聞いた話ですが、『以前は、葉山にも魚市場があったので、魚介類などを水揚げができる市場を将来的には作りたい』と聞き、僕はすごく共感しました。年々、漁業に携わる方も減ってきているので、葉山、三浦半島全体ではあるんですけど、そういう取り組みをしている漁協の方々とも協力ができたらと思っています」
最後に、地元葉山で長い歴史をもつ日影茶屋の社長として角田さんは、これから地元とともにどうしたら継続的に繁栄していけるのか、次のように抱負を語った。「うちももう、日影茶屋は私で11代目です。江戸時代からずっとこの地で商いを続けてきているので、やはり地元の人にとって、葉山に日影茶屋があって良かったと言ってもらえる会社にしていきたいと思います。あとは、少しでも葉山、そして三浦半島などの地域全体で何かできることがあればと思っています。やはりそこには、地元の食材を使ったり、頑張っていらっしゃる農家さんや漁業の方々から食材などを仕入れさせてもらって、全体が継続的に動く地域環境ができればいいなとは思っています」
「ヤサイクル」の生ゴミ処理機は10年以上前から導入され、「日影茶屋」とレストラン「ラ・マーレ」の2カ所に設置されている。駆除されたウニもまたこの処理機で堆肥としてリサイクルされている