食の安全・安心を生産者の見える化で対応する
オーガニックモール、「たべるとくらすと」
「たべるとくらすと」を運営する岩永亮さんの本職はウェブ開発ディレクター、彼が経営するウェブ製作会社はこれまで多数のプロジェクトに参加し、今も大手企業などの仕事に携わっている。そんな会社が2017年に立ち上げたのが「たべる人とつくる人をつなぐ」をコンセプトにした無添加・無農薬などのこだわり生産者直売のオーガニックモールだ。
https://taberutokurasuto.com
岩永亮さん、 綾子さんご夫妻 「タベクラマルシェ」イベントにて
岩永亮さんがオーガニックモールをはじめるきっかけは何だったのだろう。「子どもが産まれて親となり、自分たちの子どもにどんなものを食べさせたら良いのだろうという問いがきっかけでした。もともと私たちは食に関心があったのですが、子どもが産まれてからは本気で食に向き合い、いろいろ学びました」
自分たちの子どものための食選びからはじまった安全・安心な食への探求は止むことはなかった。「スーパーに行って食品の表示を見て、たくさんの原材料名があるけどこんなに入れなくてはいけないのだろうかというような疑問も生まれました。添加物の名前で調べたり、生産者の名前で調べてみたりしているうちにどんどん食に興味が出てきて、その反面、日本の食の振り幅が非常に大きくて、個人レベルで作っている食品もあれば、工場で大量生産している食品もある。日本の食の生産者を調べていくと、まじめに丁寧に作っているコアな生産者もいるけど、ほとんど知られていないという現実がありました。ひものなどを製造販売している宮崎の友人の家のそばで、海水から塩を釡炊きで作っている人がいて、実際に現場を見て本気で食の 生産に向き合っている生産者たちを知り、そんな生産者たちにすごく興味が湧 いてきました」
こうして岩永さんのプロ根性がむくむくと湧き上がった。人々に知られていないホンモノの生産者がいることを伝えるならネットがいちばんだろうと。こうして2017年、岩永さんは、生産者直売のオーガニックモール「たべるとくらすと」を立ち上げた。「ネットで検索して農家の人たちのインスタなどを調べて連絡したり、直接阿蘇の焼き菓子店を訪ねて何度もお願いして、10軒の生産者が集まったのでECサイトを立ち上げてゆるくスタートしましたが、もちろんビジネス的には成立しませんでしたし、オーガニックモールをやるので出店してくださいとお願いしても、知名度がないので怪しまれました。最初のころは、ひたすら家族で道の駅や自然食品スーパー、こだわり系の専門店に通い、商品に貼ってある表示を写真に撮ったり、商品を買って家に帰って食べたりしながら、生産者に電話をかけまくっていました。また、いろんなマルシェに数多く出向いて生産者と話をして仲良くなり、出店してもらうこともありました。それは今でも同じで、自分たちが素敵だと思う生産者を常に探しています」
「たべるとくらすと」のサイトでそれぞれの生産者たちがどうやって作っているのかを見ることができる。ヨモギ茶を作るために大きな部屋1杯にヨモギを広げて乾かしている農家、段々畑の水田ひとつずつ手作業で雑草を取り、お米を作る農家など、生産者の顔や作る工程が一目瞭然だ。「食べる人が、作る人がどういう人なのかをわかって食べるのと、知らないで食べるのとでは、おいしさが違うんじゃないかって思っています。『誰々さんが作ったお米はおいしいよね』というような会話が食卓で繰り広げられるのって、豊かさのひとつかなって思います」
とはいえ、「たべるとくらすと」では商品に対するオーガニックの基準やチェックはどうしているのだろうか。「基本的に信頼関係ですね。今までに問題になったケースはほとんどありません。1軒だけ、育苗する土に極微量の化成肥料が入っていたというお米を生産する農家のケースがありました。私たちのオーガニックの基準は、明確にこのラインというのはまだ引けてはなくて、基本的には化学肥料や農薬を使っていない、加工品であれば化学的な添加物を使っていないということですが、最近、果物に関しては農薬を使わないのは無理だということで、一部は許可しています。たとえば、イチゴ農家さんで使われているお酢とか、有機栽培レベルでは許可されている農薬ですね。果物は毎回出品する前に話を聞いてから販売を許可するようにしています」
岩永さんは最後に次のように抱負を述べた。「私たちはこのモールを大きくしたいということではなくて、自分たちが生活できて、作る人と食べる人がお互いに満足できるという三方良しみたいな関係が築ければいいなと思います」
究極的なヒトの健康にアプローチして食品を作る生産者や、土壌や栽培する植物の健康、ひいては自然環境や地球の健康にまで配慮しながら食品を作る生産者、「たべるとくらすと」に掲載されている生産者の紹介ページを見ていると、地球に負荷をかけまいと努力する環境活動家のような本気でホンモノの生産者がほとんどであることに気付かされる。生産者ひとりひとりがそれぞれに作る食品の過程を紹介しながら、安全・安心にこだわったオーガニックな食品を提供するECサイト「たべるとくらすと」、これからの活動に目が離せない。(文:森下茂男)