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環境トピックス

その1

浸透圧発電が福岡市の海水淡水化センター「まみずピア」で
実用化に向けて動き始めた。

今年の春、福岡市東区の海水淡水化センター「まみずピア」というところで、2025年度完成をめざして浸透圧発電」施設の起工式が行われた。この施設が完成すれば、 日本初の浸透圧発電施設となる。

 この透圧発電施設の構想には福岡都市圏が抱える問題が背景にあった。それは、福岡都市圏は一級河川がない唯一の大都市で水資源に乏しいため、遠く離れた筑後川から都市圏の約1/3の水を取水しているほどで、渇水対策のためにたびたび給水制限が行われてきた苦い過去があり、そのため2005年には福岡地区水道企業団は総事業費408億円を投じ、最大で日量5万トンの造水能力を備える日本最大の海水淡水化プラント「海水淡水化センター、まみずピア」を完成させ、渇水などの天候に左右されない貴重な水資源として、水道用水の安定供給に寄与している。

 この海水淡水化プラントでは、海水に圧力をかけ特殊な膜を活用して平均で毎日2万トンの真水を供給しているが、淡水化の際に生じるのが「濃縮海水」だ。通常、海水の塩分濃度は3.5パーセントだが、濃縮海水は8パーセントの塩分濃度になる。今まではこの濃縮海水を捨ててきたのだが、この濃縮海水を再利用して浸透圧発電を行おうという構想だ。

 浸透圧発電のシステムを研究している山口大学大学院創成科学研究科の機能性高分子工学研究室(比嘉研究室)のホームページによると、浸透圧発電の原理は、水と淡水のあいだに水を選択的に透過させることができる半透膜を挟むと、塩分濃度差により淡水側から海水側へと水分子が移動する浸透圧現象を利用して発電する浸透圧発電で、水力発電における落差約300mに相当する圧力差をわずか長さ1m程度の膜モジュールで実現させる電力方式だと解説する。

 今回、「まみずピア」での浸透圧発電では、濃度の違う「濃縮海水」と「下水処理水(淡水)」を使い、ふたつの排水の「濃度差」により生じる「浸透圧」を利用して発電する。さらに発電効率を高めるために発電プラント上で、濃縮海水はさらに高圧力に、下水処理水は低圧力に処理するという。

 発電施設は水処理のプラントメーカー・協和機電工業が7億円をかけて建設し、福岡市の水道企業団が用地と濃縮海水を提供し、2025年4月の稼働を予定している。年間の発電量は一般家庭300戸分=約88万kWhで、サッカーコート2面分の太陽光パネルの発電量に相当し、天気に左右されない安定した電源となる。さらに、濃縮海水で得られた経験をもとに将来的には通常の海水で発電する技術の確立をめざしている。

 浸透圧発電の成功のカギはやはりコストパフォーマンスだろう。日本において再生可能エネルギーのコストは比較的高いとされている。再生可能エネルギーとは、太陽光・風力・水力・バイオマス等の自然界に存在する温室効果ガスを排出しないエネルギーのことを指し、浸透圧発電もまた再生可能エネルギーだ。資源エネルギー庁のホームページによると、2020年度の事業用の太陽光発電は12.9円/ kWh、家庭用で17.7円/ kWh、また陸上風力発電は19.8円/ kWhで、洋上では30.0円/ kWhとなっている。ちなみに石炭火力発電で12.5円/ kWh、石油火力発電は26.7円/ kWh、そして原子力発電となると11.5円/ kWhだ。そして浸透圧発電ではどのくらいのコストがかかると予測しているのだろうか。前述の山口大学大学院創成科学研究科のホームページによると、9〜16円/ kWhを見込んでいると記述している。

 無尽蔵にある海水から発電できる夢の技術、浸透圧発電は日本の得意分野であるナノテクノロジーを活用した技術であり、濃縮海水と下水処理水を利用した浸透圧発電はまさにエコの究極をいく環境に優しい新エネルギーなのだろう。

浸透圧発電の仕組み_RGB.jpg

発電システムの概略

前準備: 移動する水により高いエネルギーを与えて発電効率を高めるために「濃縮海水は高圧力」「下水処理水は低圧力」にする。

① 濃縮海水と下水処理水を「浸透膜」で隔てると「浸透圧」が発生

② 塩分濃度の薄い「下水処理水」から濃い「濃縮海水側」へ「水が移動」

③ 水が移動した先の「濃縮海水側では高圧力」がかかっていることで、移動した水の

「運動エネルギーが一気に上昇」する。

④ 元々の濃縮海水に「移動してエネルギーを獲得した水」が加わり、勢いよく水車を

回して発電する。

 出典:福岡地区水道企業団HP

浸透圧発電プラント_RGB.jpg

発電施設の概要

 110kW×24時間×365日×91%(稼働率)

濃縮海水使用量: 10,000㎥/日

下水処理水使用量: 9,200㎥/日

出典:福岡地区水道企業団HP

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