『しぜんかんきょう』第二号
Interview #04
波の専門家、鈴木高ニ朗さん
鈴木高二朗さん。博士(環境学)、港湾空港技術研究所沿岸水工研究領域長、耐波研究G長(兼)
「潜堤は、波の条件や潜堤の形によって有効性が変わってくる場合があります」
Q : 潜堤(海中に潜った堤防)のデザインを始めたきっかけは ?
鈴木: この研究の背景には、20年ほど前に徳島県や和歌山県のサーフィン愛好家の方々から、「人工的にサーフィンができる構造物ができないのか?」ということから始まりました。もうひとつは、ちょうどその頃、カリフォルニアやオーストラリアのゴールドコーストで人工サーフィンリーフが作られた時期でした。
Q : 日本でも200万人ほどのサーフィン愛好家がいるので、今後の街づくりの新しいファクターとして有効ではないかと考えています。そこで、今後広く海辺の街に応用されていくためには、今大問題となっている「磯焼け」を考慮した「潜堤」を考えていくといいと思いますが?
鈴木 :「 磯焼け」は、基本的には「環境問題」だと思っています。一方で、防災面からみると、今後海面上昇や台風の巨大化が進んだ場合、場所によっては、新たに潜堤や離岸堤を設置する必要があると思います。そのとき、「磯焼け対策」として材料面などを検討すると、「防災」と「利用」と「環境」を含めた多目的な利用ができてくると思います。
Q : 逗子では昭和37年から「海底牧場」作りとして、真鶴の安山岩の投石事業が行われ、そこでサーフィンの世界大会が行われたという歴史があります。もう一度、海底をスキャニングして、どういう形の磯が自然環境に適していて、なおかつ波があるときには利用できるという構想が、今後必要になってくるのでは ?
鈴木 : 今、おっしゃられたような岩礁周辺の事例は、ひじょうに参考になると思われます。
Q : 小田原にはすでに「潜堤」が「御幸の浜」にあり、そこにかなりの藻場ができていて、新しい漁場としてすでに多くの魚たちが戻ってきたという報告と論文があります。今後、データとして広めていく必要があるかと思っています。
鈴木 : 小田原の事例も「環境面」あるいは「利用面」でひじょうに参考になる事例だと思いました。
Q : 「環境」の中には「景観」というものもありますよね?
鈴木 :「景観」も重要な「環境」の話だと思います。ただ、「潜堤」は波の条件や「潜堤」の形によって有効性が変わってくる場合もあります。とくに、これまではどうしても実験上の問題として、まっすぐの岸に平行な構造物しか考慮することができなかったのですが、今後は面的に屈曲した構造物なども実験や数値シミュレーションと合わせて検討することで、より効果的な構造物として設計できるのではないかと考えています。
Q : 先生の設計されたサーフィンリーフが、大きな浜辺の街づくりの基本になる設計やデザインだと思いますが?
鈴木: 現在では海岸港湾構造物を造るときに、来襲する波の条件をどういうふうに決めるとか、沖の波が決まると、今度は、構造物のところにどれだけの大きさの波が来るのかなど、システマチックに検討できるようになっていて、その波に応じて潜堤や離岸堤などの構造物にどれぐらいの大きさのブロックを使うなどの設計ができるようになっています。
Q : 先生の研究所では、世界最大級の津波の装置で実験されていますが、そういう装置を併用しながらいろいろな波の形をシュミレーションしていますか?
鈴木: 水路や水槽はさまざまなものがあり、大きな波を起こせる水路があります。また平面的に、先ほどお話ししたサーフィンリーフのように屈曲した構造物を検討できるような平面的な水槽があります。最近では3次元的な波の変形を計算できる数値シミュレーションが発達してきていて、この20年間でだいぶ変わってきたという気がします。
Q : 費用対効果として自然素材を使ったり、それを新しい「磯焼け対策」の素材を選ぶ ことによって、「環境」に 負荷がかからないようにしていくのは、ひとつの方向性であるかと思いますが ?
鈴木: 生物が付きやすい材料など、そういう素材がいろいろな環境の研究の中で進められてきていると思います。それを含めて構造物を造っていくことが、もしかすると、今後有効になっていくのではないかと思っています。