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コンブ王子の挑戦。

東京生まれ東京育ちの都会の青年、富本龍徳がコンブの養殖をはじめた理由。

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都会で生まれ育った人間がコンブの養殖事業をやろうと決断することはあまり例がないだろう。1981 年、東京の世田谷で生まれた富本龍徳(とみもとたつのり)が横浜・金沢八景でコンブの養殖事業に乗りだすきっかけは何だったのだろうか。「テレビなどのメディアを通して山火事などのニュースなどでしか環境のことに触れることがなく、また海外にいると温暖化というキーワードがどんどん耳に入ってきて、自分でできることは募金ぐらいかなって考えていたんですが、アクセスできるルートもなくて歯がゆさを感じていました」と、富本は言う。

 そんな彼が、環境問題に取り組むきっかけは、コンブの養殖をやっているある年配の男性との出会いだった。「コンブといえば、おでんの具とか出汁を取るとか、食べるというイメージしかなかったんですが、コンブが環境保全にいいということを聞いたときに、すごく衝撃を受けました。しかも、コンブにはいろいろな使い方があるという世界観が見えたときに、本当に自分の身近な素材で環境のことに携われることができて、また人の健康にも貢献できるなら、ひとつ事業として時間をかけて取り組んでもいいんじゃないかとはじめました。それが2016 年です」。2016 年、富本は一般社団法人幸海イニシアティブを横浜で、共同でスタートさせた。

 なぜ富本はワカメではなくコンブに注目したのだろう。「コンブなどの大型海藻はワカメやアマモなどに比べて二酸化炭素の吸収量が多かった。しかも食品として食べられるということで、とても可能性を感じた。それと、畜産で飼料として与えると、温暖化の影響が二酸化炭素よりも悪いとされるメタンガスの排出量が減るといった、当時面白いエピックが出ていた。また肥料にもなるということです」。じっさいに水産庁が公開しているデータによると、トンあたりの二酸化炭素吸収量/ha/ 年では、海藻類が平均値で5.8 トン、コンブは10.3 トンと、ほぼ倍の二酸化炭素吸収量がある。富本によると、100m x 100m の面積で、ワカメで7.5 トン、コンブでは16 トンほどの二酸化炭素の吸収量になると解説する。

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 こうして富本が選んだコンブの養殖場は横浜市の金沢八景の海だった。「場所は金沢八景のシーパラダイスのジェットコースターの真下のところです。金沢八景の漁師さんたちが協力してくれています。畑は20m x 20m のいかだが2 面、面積はだいたいテニスコート3 面分です」。富本が横浜でやるには理由があった。「秋田でコンブの養殖をやられていたその年配の方はすでにご高齢で年齢的にもきついということで、新たに大都市圏でやろうということになり、その方のノウハウや資料、意志を引き継ぐかたちではじめた」。富本が目をつけたのは横浜市だ。「横浜は380 万人と人口が多いので、目玉となるコンブの生産から消費までしっかりとした事業化ができるのではないかと考えた」という。

 養殖するコンブはマコンブ(※)という種類で、少し暖かい海でも育つコンブだという。「マコンブは、北は北海道から南は九州まで展開できるということで選びました。もともと金沢八景のエリアは、海苔やワカメはひとつのブランドになるぐらい養殖が盛んですが、最近ではほかの地域で話題に上がるような磯焼けの影響でワカメなどが育たなくなっていて、漁師さんたちも頭を悩ましていました。コンブはそのなかでも比較的安定して収穫できています」

 コンブの養殖をはじめた当初、種は北海道から譲り受けていた。「11 月初旬に赤ちゃんコンブの種付けをしたロープを下ろし、翌4 月に収穫していました。この辺りの海は水深が7m ほどあり、水面から1m ほどの日の光が届くところでロープを垂らして、コンブが常に浮遊しているような状態にしています。収穫時には4m ほどの大きさになり、収穫量はこの畑で6 トンぐらいになります」

 しかし、ここ金沢八景の海でも温暖化の影響で海水温が高くなるにつれ、種付けも11 月中旬になり、下旬になり、今年は12 月初旬に予定している(取材時)。いままでは富本自身でコンブの種を調達してきたが、今は金沢八景の漁師にまかせているという。つまり、コンブの種付けから収穫は地元金沢八景の漁師たちに任せ、収穫したコンブ全量を富本が買い取り、製品にして流通させている。

 コンブの養殖をはじめた当初、種は北海道から譲り受けていた。「11 月初旬に赤ちゃんコンブの種付けをしたロープを下ろし、翌4 月に収穫していました。この辺りの海は水深が7m ほどあり、水面から1m ほどの日の光が届くところでロープを垂らして、コンブが常に浮遊しているような状態にしています。収穫時には4m ほどの大きさになり、収穫量はこの畑で6 トンぐらいになります」

 しかし、ここ金沢八景の海でも温暖化の影響で海水温が高くなるにつれ、種付けも11 月中旬になり、下旬になり、今年は12 月初旬に予定している(取材時)。いままでは富本自身でコンブの種を調達してきたが、今は金沢八景の漁師にまかせているという。つまり、コンブの種付けから収穫は地元金沢八景の漁師たちに任せ、収穫したコンブ全量を富本が買い取り、製品にして流通させている。

 「もともと活動の理念は海の環境保全・水質浄化で、それでコンブ養殖の事業化をはじめましたが、北海道との関係でスーパーなどで売られる乾燥コンブの競合は避け、生のコンブを販売・流通させようということです」。富本は、収穫したコンブをいったん冷凍保存し、さまざまな調理法や商品化を模索している。「生のコンブでなにか商品化できないかというと段階で、クラッシュしてうどんに練り込んだりと商品化にトライしています」

 もともと富本は、ブルーカーボンの制度についてなにも知らなかったのだが、数年前、横浜市が主導しておこなっているカーボンクレジットに応募した。「活動をはじめて4 年目に、横浜市が、ワカメもコンブも認証しますという知らせが届いたので、『やっと二酸化炭素吸収量が見える化できるね』とスタッフたちと喜び、応募しました。当時、5 トンほどの収穫量でしたが、なにか小難しい方程式を当てはめるとたった0.2 トンしかなりませんでした。金額にすると2,000 円ほどで、食べるというアウトプットの計算式が全然低かったです。海の中では吸収量は非常に多いということなんですが、ブルーカーボンのクレジットとしての評価は低くて、藻場作りのほうが、優位性があることがわかりました。コンブを食べると、吸収していた二酸化炭素が放出されるということなんですね」

 採算は大変厳しいと、富本は肩を落とす。「当初は補助金をもらったり、企業から賛助金をもらったりしていましたが、コンブという商品があるのだから、しっかり売ってお金にしていくしかないと思っています。いまでも正直課題でして、出口がしっかり固まらないと活動が継続できません」

 それでも最近、新しい組織“幸海ヒーローズ” に移行した際、フランスの船会社から援助の申し出があったという。「船の業界も二酸化炭素の問題が持ち上がっているようで、海藻の養殖が二酸化炭素の吸収に効果が高いというレポートを元に、日本の大都市圏でコンブ養殖をしているユニークな団体がいることを知り、連絡をいただきました。海藻の養殖はバイオガスやバイオエネルギーの活用を考えたときに、可能性があるということなんですね。コンブの養殖の事業化も大変グローバルな流れになってきています」

文:森下茂男

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中央下でV サインをしているのが富本龍徳さん。左奥から田中さん、手前の青エプロンの佐藤さん、その右奥は神田さん、その右隣は山ノ井さん、右手前は荒木さん、手前マスク姿の中尾さん、そして奥の右端が西山さん

幸海ヒーローズ

神奈川県横浜市青葉区もえぎ野14-23

Mail: support@sachiumi.com

URL: https://sachiumi.com

(※)マコンブ(真昆布/ 学名:Saccharina japonica)は日本固有種であり、北海道から津軽海峡、岩手県北部にかけて分布するが、中国やロシア、フランス、韓国でも養殖がおこなわれている。体長は3m、幅30cm 程で笹の形に似ており、水深20m 以浅の岩で生育する。寿命は約2 年。マコンブは日本料理はで最高級品として取引されている。(出典:ウィキペディア)

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